PROJECT 01

世界最大の自動車生産国・中国で
モータコア製販一体体制を構築する

中国でのモータコア製販一体会社設立プロジェクト
PROJECT
PERSON
桂木 敏夫
Toshio Katsuragi

UNITED COIL CENTER LTD. 社長
(元・鋼材第三本部 薄板部長)

Phase01

プロジェクトのはじまり

EV市場拡大に備え、MISIのビジネス基盤を確立せよ
急速に市場が拡大し続ける世界のEV(電気自動車)市場。MISIではEVの黎明期である2000年初頭より将来のEVの普及を睨み、電磁鋼板を材料とする駆動用モータコア供給体制の仕組みづくりを模索してきた。市場は全世界に広がる。その中でも中国は世界の販売台数の約4割以上を占め、2017年の販売台数は約58万台にも達する、EV市場の牽引国だ。2012年には世界大手のモータコア製造会社EURO GROUPと合弁で、上海にモータコア販売会社を設立。4年後の2016年には、中国浙江省嘉興市において、製販一体会社Euro-MISI Laminations (Jiaxing) Co., Ltd.を設立、いち早く中国市場での本格的な供給体制をスタートさせた。いかにして将来の好機を見出し、実現に繋げたのか。今回はその裏側に迫る。
2006年、電磁鋼板課の課長に就任した桂木にとって、電磁鋼板の新規市場開拓は重要なプロジェクトのひとつであった。電磁鋼板とは、電機的特性に優れ、電流を効率よく通すことができる鋼板であり、各種モータや変圧器等に使われていることが多いが、近年ではEVやHV(ハイブリッド車)の駆動用モータのコアにも使われることが増え、それはモータの性能を左右する重要な材料と認識されている。 「MISIでは早くから電磁鋼板の新たな市場の一つとして、EVを始めとする環境対応車の市場に着目してきました。具体的に動きを取り始めたのは2003年頃、当時から私の先輩方は、将来の環境対応型の自動車市場の成長を見据え、EV市場での電磁鋼板需要に着目、マーケット調査を始めていました。2006年、私は電磁鋼板第二課の課長に就任すると同時に先輩方の意志を引き継ぐ形で、鉄鋼メーカーとともに世界の主要な自動車メーカーを訪問、今後のEVの生産予定や、電磁鋼板需要についてヒアリングを続けていました。その中で分かったことは、自動車メーカーがEVの生産において求めているものは、電磁鋼板そのものではなく、電磁鋼板を数十枚から数百枚積み重ねて製造されるモータコアの供給である、ということでした。電磁鋼板自体の性能は、その電磁鋼板をプレス・積層してコアにする技術に直結します。EVの駆動用モータともなれば、そのいずれにも高度なレベルが求められる。MISIが鉄鋼総合商社として存在意義を発揮するには、ただ電磁鋼板を販売するだけではダメだ、どのような機能を提供できるか、どれほど高度な技術を提供できるか、そこに存在価値が問われることになる、と思いました。」商社としてのMISIの役割は、鉄鋼メーカーから材料を仕入れ、それらを必要とする客先に供給するだけではない。むしろ、客先が必要とする潜在的なニーズをいち早くキャッチし、そこに商社としての付加価値を加えることが必要なのだ。時にはその供給サプライチェーンの構築を担うケースもある。今回のプロジェクトに関して言えば、自動車メーカーが求めているのはEVに不可欠な高品質なモータコアであった。ならば、“電磁鋼板の販売”という枠組みから一歩踏み出し、鉄鋼メーカー、加工会社、金型メーカーなどの様々な関係者を巻き込んだ上で自動車メーカーに高品質なモータコアそのものを提供していく必要がある。桂木は具体的なアクションを取る日がそう遠くないことを肌で感じつつあった。

Phase02

プロジェクトの成果

EVの世界市場を視野に、戦略的パートナーシップを強化する
ちょうどその頃、MISIは電磁鋼板のラミネート加工(型抜きした電磁鋼板を積層してモータ・発電機用のコア製品を製造する工程)分野において当時世界第2位のシェアを誇っていたEURO GROUPとの接触を開始することになる。小型モータコアから大型モータコア製造まで幅広い商品群を持っていたEURO GROUPは、イタリア・ミラノに本社を置き、当時メキシコにも加工拠点を置いていた。一方MISIはアジアを中心に加工拠点を展開、日系鉄鋼メーカーや日系企業との長年にわたる安定的な取引関係があった。MISIは世界的なモータコア商売拡大のための戦略パートナーとしてEURO GROUPとの事業提携を模索し始めた。EURO GROUPも興味を示したものの、当時はまだ互いに課題も多かった。2008年、結果的に桂木は後任者に後を託し、自分はMISI事業会社(コイルセンター)であるUnited Coil Center, Ltd.(UCC)の副社長の任に就き、タイに赴任することとなる。桂木が日本を離れてからもEURO GROUPとの事業提携の話は進められていた。MISIも中国の飛躍的な自動車生産台数の増加を今後のEV市場の核と睨み、同国におけるEURO GROUPとの事業提携を模索していた。そして2012年、幾度にも及ぶ交渉を経て事業提携が成立。中国/上海市に両社合弁の形でモータコア販売会社「欧絡伊紅貿易(上海)有限公司(EURO-MISI上海)」を設立。戦略的提携が本格的にスタートした。その2年後の2014年、桂木は6年間のタイ駐在を終え帰国。薄板部長代行として再び電磁鋼板の販売を管轄する席につくと、早速EURO-MISI上海に目を向けた。「中国のEV化の機運が我々の予想を上回るペースで拡大し、競合会社の出現も予想されていた中で、販売機能のみのEURO-MISI上海を有効活用できていなかったのです。やはり、本当の意味でのMISIとEUROの事業を提携させる、つまりEURO GROUPのモータコア製造における経験・技術力、MISIのネットワークを活かした販売力、この両社の強みをひとつにし、グローバル市場で顧客のニーズを的確に捕捉していくためには、製造と販売の両方を事業とする製販一体体制の構築が不可欠だという思いに至りました。」 早速桂木は具体的な行動に打って出る。いくつかの案が浮上した中で、最終的に選ばれたのは、中国国内の既存モータコア製造拠点との統合であった。白羽の矢が立ったのは、浙江省嘉興市に位置する「嘉興紅忠鋼板加工有限公司(JHSP)」。同社は、鋼板のスリット業務に加え、日系客先および欧米系客先へのモータコア製造も請け負っており、まさにEURO-MISI上海のための製造拠点であった。MISIはJHSPのモータコア製造事業を分離、販売会社であるEURO-MISI上海と統合させることで製販一体体制を構築するという新たなプランを策定し、EURO GROUPとの交渉に入った。事業規模の大幅な拡充、またEURO GROUPにとっては初の中国における生産拠点ということもあり、交渉は難航を極めた。膨大な資料を読み解き、何時間にもわたる電話会議が連日続くこともあった。部長代行としての通常業務を背負いながらの交渉は決して簡単なものでは無かったが、チームメンバーと一枚岩になって取り組む日々が続いた。多くの交渉を乗り越えた結果、2016年4月、嘉興市にMISIとEUROの製販一体合弁会社「Euro-MISI Laminations (Jiaxing) Co., Ltd.(EMLJ)」を設立。同7月には新体制の下、製造設備の本格操業を開始、中国市場での本格的な供給体制を確立したのであった。一方、2015年12月には、中国案件と同時に交渉を進めていた、EURO GROUPのメキシコ拠点であるEurotranciatura Mexico S.A. de C.V.への出資も実施、米州のEV市場への進出も着々と進めている。 「先輩方が電磁鋼板の新たな市場、EV市場に着目し、それを我々が事業として具現化し、グローバルに展開していく。常に先陣を切って新たなことにチャレンジしていくというスピリットはMISIらしさかもしれません。常に“10年後のMISI”を見据えることが大事だと思っています。その意味では今度は我々が“10年後のMISI”のために種を蒔く番です。EVの次のターゲットは何なのか、電磁鋼板という商材をベースにどのようなビジネスチャンスが10年後の世界にあるのか。次代に繋ぐ新たなストーリーを考えていくことが、これから我々がなすべき大切な課題であると考えています」。