PROJECT 02

インド市場を知り尽くし、
加工・販売網を構築せよ

インド・大手高炉メーカーとの合弁会社設立プロジェクト
PROJECT
PERSON
大越 政幸
Masayuki Okoshi

伊藤忠丸紅鉄鋼大洋州会社 Managing Director
(元・伊藤忠丸紅鉄鋼インド会社 社長)

Phase01

プロジェクトのはじまり

未開拓のマーケットに秘められた大きな可能性
「こんなチャンスは無い。やり方によっては無敵の勝ち残り商社になれる。」こう呟いたのは当時伊藤忠丸紅鉄鋼インド会社のトップを務めていた大越だ。2011年10月13日、MISIはインド国内最大手の民営鉄鋼メーカーであるJSW Steel Limited (以下JSW社)と折半出資の薄板サービスセンター「JSWMIスチールサービスセンター社」を設立した。当時は新聞にも取り上げられ、MISIにとっても、また日本の鉄鋼マーケットにとっても大きなニュースとなった。この合弁会社設立の立役者の一人、大越が自動車鋼材第三課の課長から、インドへ現地法人の社長として赴任したのは2007年のことである。「送別会では皆さん、すごく気の毒そうな顔で、励ましの言葉をくださいましたね(笑)。」2007年、赴任当時のインドの鉄鋼マーケットの状況について大越はこう語る。 「人口13億人を目前にし、ゆくゆくは中国を抜くとも言われているインド。潜在的な可能性を秘めた市場の大きさは確かに魅力的でしたが、当時まだ外国企業は、どのような形でこの成長マーケットに参入するべきか試行錯誤をしていた時期だったと思います。特に、日系企業は色々な形で合弁会社設立にトライしていましたが、失敗を重ねていました。」成功に至らなかった原因は、現地の法制度、商習慣、労務管理ルールなどが複雑で、理解するのが困難なことが大きい。大越は、まず最初の数年をかけてインドのマーケットに関する情報収集を進めた。ほとんど手つかずのマーケット、やればやっただけの成果が期待できる。大越にはやりがいの大きい国に見えた。そしてMISIだからこその大いなる可能性を直感する。その理由の一つは、人数は少なくとも前任者の育てた優秀な現地スタッフがいたこと。もう一つは、MISIは1998年以来、小規模ではあるが日系商社としては唯一、インド民間最大手の鉄鋼メーカーであるJSW社とのコンスタントな取引が継続していたことだ。主な取引は、表面処理鋼板を北米向けに輸出すること。10年もの時間をかけて構築された信頼関係は、その頃ようやく実を結びつつあった。事実、2007年2月には、丸紅とJSW社が年産350万トンの熱間圧延機の導入契約を締結。突破口を開いたのはその時だった。MISIはJSWスチール社から、高級鋼材製造のために日本の鉄鋼メーカーとの提携を考えているとの情報を得た。MISIが白羽の矢を立てたのは当時、まだインドに提携先を持たない、日本の大手鉄鋼メーカーの一つであった。 大越らインド会社のメンバーは、インド鉄鋼マーケットの攻略方法を探る情報収集を進めつつ、両社の提携のサポートに注力した。その結果、JSW社に対する原材料の試験販売、同社の米国事業会社へのJSW材の輸出などを経て、2009年11月、JSW社と日系鉄鋼メーカーの包括的提携契約が締結されたのである。その際、MISIに対するJSW社の国内販売網構築のサポート要請が、冒頭に紹介した合弁会社設立の実質的な号砲となった。

Phase02

プロジェクトの成果

「知力、体力、インド力」
チームの総合力で成し遂げた合弁会社の設立
「相手はインド有数の上場企業ですから、交渉は案件に応じて、各分野のプロが登場します。そのため、こちらも総力戦で戦わなければならない。そこで全社プロジェクトとして、タスクフォースを組成し、それぞれの役割を明確にしながら交渉に備えました。実際の交渉の場にはできるだけ全員で参加し、それぞれの得意分野を活かしながら、チームの総合力で勝負したのです。」ここで物を言ったのは、大越らの「知力・体力・インド力」。インド力とは、まさに大越が赴任以来力を注いできた、現地マーケットに関するきめ細かな情報収集から生まれた知識とノウハウの結晶だ。インドではJSW社のような大手企業でも、最終決定はオーナー一人の意向に左右される。積み上げてきた交渉が、土壇場でひっくり返される苦汁を何度も舐めながら、それがインドのマーケットだと知っていた大越らは、粘り強く交渉を続けた。このチームの総合力と粘りが、このインドにおける日系最大級のコイルセンターを擁する合弁会社の誕生を導いたのである。
MISIは元々インド戦略として、4つの目標を掲げていた。1.日本からインドへの高級鋼材の輸出、2.日印鉄鋼メーカー同士のアライアンスに参画して販売の仕組みを構築する、3.インド材の輸出、4.事業投資を通じて国内流通に参入し国内販売を増やす、の4つである。この全ての戦略において、JSWMIスチールサービスセンター社の果たす役割は限りなく大きい。MISIの目指す地場最強商社に向けて、将来へつながる布石が打たれたのだ。「海外・国内で様々な案件に携わる中で感じたのは、“必ず答えは現場にある”、ということ。失敗も含めて、ムダなことは何もないということですね。」 大越は2016年10月からメルボルンにある伊藤忠丸紅鉄鋼大洋州会社に、Managing Directorとして赴任している。閉鎖的とも言われるオーストラリアの鉄鋼産業の実態を肌で感じる為、今は鉄鋼関係者と共有する時間を最も大切にし、現地の取引先や事業会社の社員との関係構築に精力的に取り組んでいる。国外からの輸入材の規制の厳しさに耐え切れず撤退していく商社が多い環境下で、大越は、この土地だからできること、自分だからできること、MISIだからできることを考え、早くも今後の展開イメージを膨らませている。このポジティブな思考こそが、インドのプロジェクトが大越に残した財産なのかもしれない。