PROJECT 03

世界を視野に
中国での特殊鋼事業に進出せよ

中国特殊鋼生産に向けた日米中共同プロジェクト
PROJECT
PERSON
並木 俊雄
Toshio Namiki

経営企画部長代行(兼)広報室長
(元・自動車鋼材本部 特殊鋼・線材部 特殊鋼・線材課長)

Phase01

プロジェクトのはじまり

新たなMISI流ビジネスモデル、挫折の危機
「こんな時期に1泊3日の強行軍でコロンバス(米国オハイオ州)まで足を運ぶことになるとは…」、並木が想像もしていなかった2013年の年明け早々。MISIがいわば「仲人役」となって進めてきた、日・米の有力鉄鋼関連メーカーとの中国での共同事業。それまで約1年半、様々な課題を1つひとつ乗り越えてようやく形が見えたはずだったのに、すべてをひっくり返すような知らせが突然届いた。その対応のため、並木は急遽米国のパートナー企業の元へ向かっていた。
並木が進めてきたプロジェクトは、供給家や需要家を様々な形で結びつけて新たな事業を創造する、MISI流ビジネスの代表例になり得るものだった。パートナーの1社は日本の特殊鋼メーカー大手、日新製鋼。
剛性はもちろん厚みの均一性や表面の滑らかさなどに優れる特殊鋼鋼板は、日本や欧米の一部メーカーにしか製造できないもので、日新製鋼はその国内最大手。自動車ではATのクラッチプレートに多く用いられ、世界最大の自動車生産国となった中国でも需要が大幅に伸びていた。しかし中国国内では生産体制が整っておらず、部品を輸入することで補っているのが現状であり、特にAT車を主とする日本や欧米系の部品メーカーから、鋼板の現地生産を求める声が高まっていたのである。「当社は5、6年前まで、中国における特殊鋼の取り扱いはほとんどありませんでしたが、当時の駐在員のきめ細かな営業活動の甲斐もあって、わずか3年ほどで年間6千トン程度の規模にまで商売を広げることができました。このことが日新製鋼からの信頼を高め、中国で特殊鋼鋼板の生産を始めたいという相談を受けることに繋がったのです」
もう一方のパートナーは、米国の鋼材加工・金属製品メーカーのWorthington Industries,Inc(以下、Worthington)。同社は北米の特殊鋼鋼板市場で約5割のシェアを獲得しており、米国の自動車関連メーカーが中国への生産移転を拡大する中、自らの中国進出もかねてから検討していた。「Worthingtonと当社は、お互いが持つ米国の建材事業会社を合併して業界No.1の会社を設立し、リーマンショック後の苦難を乗り越えた実績がありました。このような経緯もありWorthingtonからもまた中国での特殊鋼事業に関する相談が持ちかけられていたのです」
同じ目的であるのなら、個別ではなく、共同で事業を立ち上げた方が事業のスケールが大きくなり成功の確率も高まる。そう考えた並木たちが2011年の秋にWorthingtonの首脳を日本に招き、日新製鋼との協議の場を設けたことで、このプロジェクトは始まった。ほどなく大筋での合意に至り、製造方法などのすり合わせに進むのだが、後に、予想以上に多い条件の違いが並木を慌てさせることになる。
「製造するものは基本的に同じなのですが、使う設備や製造方法などにかなりの違いがありました。共同事業なので双方が納得できる着地点を見つけなければなりません。この局面では、通訳となって両社のコミュニケーションを円滑に進めることが我々の大きな役割でした」
また会社設立に向けた協議も始まり、出資比率についても三社で大筋合意、新会社の概要が固まりつつあった。2013年の初めには、日新製鋼とMISIのトップ会談にて、この中国プロジェクトに対する期待が語られたという。ところが同じ頃、並木の元にWorthingtonから「プロジェクトから降りる」という知らせが届いたのである。社外取締役が多くを占める取締役会において、投資に対するリターンが魅力的に映らず承認が得られなかったというのが理由だった。

Phase02

プロジェクトの成果

プロジェクトを危機から救ったMISIの新提案
Worthingtonの幹部はこの事業の可能性を高く評価しており、何らかの助け船を出さなければならない。その思いから並木は急遽、同社があるコロンバスへ飛んだのだった。そして並木は、Worthingtonの当初出資分を10%程度に下げてプロジェクト参画のハードルを低くしてはどうかと提案する。結果的にその提案がWorthingtonの取締役会で承認されたのであった。
その後も細部の調整作業を重ね、2013年10月の正式発表に至る。日新製鋼55%、MISI 35%、Worthington10%の出資で浙江省平湖市に「浙江日新華新頓精密特殊鋼有限公司」を設立し、2015年末の稼働を目指して工場を建設。主に自動車部品向けに、年間12万トンの特殊鋼鋼板を供給するというのが発表の概要である。ようやくここまで辿り着いたが、並木は今後も困難が待ち構えていることも想定し、気を引き締めている。
「営業面では、日新製鋼が日本、Worthingtonが米国で築いた自動車や部品メーカーの顧客基盤を活かすことができます。ただ、中国進出を機に欧州系のメーカーにも切り込もうという目標があり、我々の営業力に大きな期待がかかっています」中国での合弁会社の設立や工場建設においても、様々な経験と知識を持つMISIの力が必要になる場面は多く、「リスクを取らずにリターンはない。そのリスクをミニマイズするのが、私たち商社の機能だと考えています」と並木は語る。日米3社による中国でのプロジェクトを成功させるために、MISIは今後もさらに重要な役割を担っていく。