ELECTRICAL
STEEL SHEET BUSINESS
成長市場の最前線で活躍する社員が考える、
電磁鋼板とEVビジネスの未来とは?
PROJECT MEMBER
SHINPEI ETANI
江谷 心平
鋼材第三本部 電磁鋼板部 電磁鋼板第二課
組織でビジネスを拡大していくことに魅力を感じ、大きなチャレンジを求めて、2020年にMISIへ転職。前職では、自動車用鋼板や家電用のカラー鋼板、電磁鋼板を担当。これまでの経験を活かし、今後も電磁鋼板の可能性を追求していく。
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EPISODE #01
“お荷物扱い”だった電磁鋼板が、脚光を浴びる時代に
私たちが扱っている電磁鋼板とは、簡単に言うとコイルを巻き付けて磁石にした際、より強い磁力を有し、より小さいロスとなるように作られた特殊な鉄板です。主に「方向性電磁鋼板」と「無方向性電磁鋼板」の2種類に分けられ、方向性電磁鋼板は発電所から各家庭に電気を届ける際に必要な変圧器に、無方向性電磁鋼板は発電機、産業用や家電用のモーター等に主に使われてきました。以前は用途も流通量も限られていたため、大きな売上を生み出すモノとしては考えられていませんでした。「損失をどう抑えるか」ということに注力していたほどです。
取引先が重視するポイントも鉄そのものの強度を表す「機械特性」ではなく、磁石にした際にどれくらい強い磁気を持つか等を表す「磁気特性(※1)」ですし、鉄鋼分野の中でもかなりマニアックな製品と言えます。実際、電磁鋼板を作っている企業は世界を見渡しても十数社しかありません。世界の人口が増加するに伴い電力消費は増えて、変圧器の需要が伸びてはいるにもかかわらず、十数社の生産量で事足りたのです。
このように長らく日陰にいた電磁鋼板ですが、あるモノの登場で一躍脚光を浴びるようになります。それが、電気自動車(EV)をはじめとした自動車の電動化です。
※1 磁気特性とは磁性材料が磁化された際に、材料が示す磁気的な性質
(出所:大同特殊鋼公式コーポレートサイト)
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EPISODE #02
薄手高機能電磁鋼板がEVを進化させる
ハイブリッド自動車(HV)やEV等の電動車は、電気で駆動用モーターを回転させて動かしています。このモーターの核となるのがモーターコアと呼ばれる部品であり、モーターコアは数百枚の電磁鋼板を重ねて作られます。電磁鋼板は薄いほど高性能で、エネルギーロスが少なくなります。電磁鋼板の機能の高さがモーターの機能の高さとなり、HV/EV の性能に直結するため、シェア拡大を狙う世界中の自動車メーカーが先を争うように良質な電磁鋼板を求めています。
当初国産HVの駆動用モーターのモーターコアに使用されていた電磁鋼板と、現在量産されている、または今後量産が行われるHVやEVの駆動用モーターのモーターコアに使用される電磁鋼板では、技術開発が進んだことにより、30-40%程度の薄手化が進んでいます。このような薄手高機能電磁鋼板は製造できる鉄鋼メーカーも限られている一方で、HVやEV等電動車の開発と比例して電磁鋼板の使用量も急激に伸びていくため、このままでは供給が追いつかなくなる見通しです。いまや電磁鋼板は鉄鋼全般の中でも将来性が明るい市場となりました。
私が所属する電磁鋼板第二課は海外向けのデリバリーを担っていますが、日本はHVに強く、EVを牽引しているのは欧米や中国です。特にEUは地球温暖化対策の一環としてCO2の排出規制が厳しく、イギリス、フランス、オランダでは2025年を目途に新車販売の50%はEVになる予測が立てられています。ノルウェーではすでに新車販売の58%がEVになっています。(※2)
日本でも2020年末に経産省からグリーン成長戦略が発表されました。脱炭素社会を目指し、自動車業界に対しては2030年代にすべての新車販売を電動車とする目標を設定。この宣言に伴い、日本でも自動車の電動化の流れはますます加速していくと思います。
そして自動車の電動化により、電磁鋼板への注目度は急上昇しました。自動車業界からは引く手あまたで価格も上がり、社内からも期待を寄せられています。かつては損失を抑えようと苦心していたのに、いまはデリバリーでどう利益を生むかという商社本来の仕事の醍醐味を味わっています。
モーターの中核を担うモーターコアと呼ばれる部品
※2 新規販売車の電気自動車のシェア
出所:国際クリーン輸送協議会(ICCT) 2020年7月公開資料 出典:ICCT
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EPISODE #03
戦略的な事業投資でEVビジネスが拡大中
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当社は世界的なモーターコアメーカーであるEURO GROUPと上海に合弁会社Euro-MISI Laminations (Jiaxing) Co., Ltd.を設立し、EURO GROUPのメキシコ拠点であるEurotranciatura Mexico S.A.de C.V. にも出資しています。Eurotranciaturaは本社がイタリアにあり、中国とメキシコに工場を抱えているため、自動車の主流マーケットとなる欧州、北米、アジアと世界規模で高品質なモーターコアを提供できることが強みです。当社もEurotranciaturaを通じてアメリカとドイツの主要自動車メーカーと取引していますが、デリバリーだけではなく事業投資によってビジネスの可能性を切り拓くことも商社の役割であり、これまでの戦略的な投資が実を結んでいると言えます。
メイド・イン・ジャパンのモノづくりは電磁鋼板でも力を発揮しており、国内のある金型(※3)メーカーは特殊な接着剤により電磁鋼板を重ねてモーターコアを製造する際に電磁鋼板を特殊な積層方法で固定する特許技術を持っています。そして、その特許技術をEurotranciaturaにだけ供与しています。この金型メーカーとは当社からの出資以外に人材交流も図っており、2社の力を借りて来年からアメリカの大手自動車メーカーと新しい取引もスタートすることになりました。MISI、Eurotranciatura、金型メーカーがWin-Win-Winの関係を築き、EVを進化させる高品質なモーターコアを供給する。この取り組みが世界中の自動車メーカーからの信頼獲得につながり、当社のEVビジネスも拡大し続けています。
実際に私がMISIに転職して一番驚いたのは、所属課の中でも、成長市場の最前線でもチームで団結し、総合力で目標を達成する姿勢です。チームとして、会社としてベストな方法を考え抜き、方針が決まれば徹底する。だから、お客様に対しても決して妥協しません。
価格交渉で妥当な線に決まりかけても、相手に損をさせずに当社の利益を最大化できるよう粘り強く交渉します。ただ、こちらの要求を無理に押し通そうとしてもお客様に嫌われるだけです。普段から電磁鋼板を取り巻く環境やEV市場について常に情報を収集・整理し、お客様に有意義な情報を提供することで交渉を有利に運べるよう工夫しています。
※3 金型は素材の塑性または流動性の性質を利用し成形加工して製品を得るための、主として金属素材を用いてつくった型の総称。(出所:日本金型工業会公式サイト)
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EPISODE #04
EV普及の課題と電磁鋼板の未来
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今後、電磁鋼板はEVを中心に供給量を伸ばしていくでしょう。自動車の新モデルを完成させるには多くのテストをクリアしなければならないので、いまは2023年~2025年に自動車がどう変わっているのか、そのために必要な製品や技術について各メーカーと話し合っているところです。ただ、EVの先行きに懸念がないわけではありません。
EVは電気で走るため、EVが出回ると電力不足に陥る危険性があります。特に現在の日本は火力発電がメインということもあり、自動車でCO2を減らしても発電時のCO2が増えれば本末転倒です。エネルギーの状況次第ではHVや外部電源からも充電できるプラグインハイブリッド自動車(PHV)が主流になるかもしれません。
そして、1時間程度かかる充電時間をどれほど短縮できるのか、マンションなどの集合住宅にEV用の充電設備を備えられるのかなど、周辺環境の整備も普及速度に影響を与えると思います。とはいえ、EV化推進の流れ自体は既定路線なので、さまざまなことに注視しながら動向を把握したいと考えています。
いま私たちが高品質な電磁鋼板とモーターコアを武器に世界中の自動車メーカーと取引できているのは、先輩たちが早くからEVの市場拡大を確信し、提携や事業投資によって技術力の高い企業と関係性を築いてくれたからです。引き継いだ財産を活かしながら、電磁鋼板のさらなる用途と可能性を探る。それが、私たちに課せられた使命だと感じています。MISIは新しいチャレンジを歓迎してくれる、風通しの良い組織です。電磁鋼板の可能性を探る過程で知識と経験を培い、自己成長を繰り返すことで私たちが次世代へ引き継げるものも生まれてくるのだと思います。